THEペット法塾・秋の勉強会のご報告
2022年11月4日(金)午後1時から開催された、
THEペット法塾・秋の勉強会にて、講演をさせていただきました。
多方面での活動報告を受けて、現在の動物問題の
最先端をうかがい知ることができました。
私は盲導犬ユーザーによる盲導犬の不適切飼養問題について取り上げております。
盲導犬は訓練された大変賢い犬ではありますが、
一方で人間の世話を必要とする愛護動物としての側面もあります。
そのため、ユーザーだけで十分な世話をすることができるケースであれば別ですが、
そうでない限り、盲導犬協会や周囲による
ユーザーと盲導犬に対するバックアップが必要不可欠です。
不幸にもユーザーが盲導犬の世話が困難な状況に陥った場合
(排泄の指示を忘れる、散歩に行けない等)
このようなバックアップがされなければ、
盲導犬もユーザーも悲劇としか言いようがありません。
特に、厳しい訓練を経た盲導犬は、人間の合図に忠実であるため、
排泄の指示がされなければ限界まで排泄を我慢してしまいます。
この点、全ての動物に動物福祉の原則である5つの自由
(動物福祉 – WOAH – 国際獣疫事務局)は適用されるところ、
当然のことながら、盲導犬についてもこの原則は適用されます。
盲導犬制度は良い面ばかりが強調され、
少しでも疑問を挟めば障がい者福祉に悖るような風潮があるところ
今後、盲導犬制度について、社会全体で真剣に考えるための問題提起として、
この問題をお話させていただきました。
勉強会の次第は次のとおりです。
テーマ「動物の命、人と動物の共生のあり方」 日時:2022年11月4日(金)午後1時~5時 場所:エル・おおさか(大阪府立労働センター)大阪市中央区北浜東3-14 南館72室 |
司会:岩本雅子司法書士 開会の挨拶 THEペット法塾 代表 植田勝博弁護士 第1部 【議員の先生方によるお話】 福島瑞穂参議院議員 牧原秀樹衆議院議員 串田誠一参議院議員 【動物をめぐるの今の諸問題】 細川幸一氏(日本女子大学教授) 【動物の命、人と動物の共生】 堀越啓仁氏(元衆議院議員) 【動物をめぐる状況と問題】 太田匡彦氏(朝日新聞記者) 【アニマルセラピーの役割】 村本知子氏(精神保健福祉士) 【兵庫県動物愛護センター第1次住民訴訟】 植田勝博氏(弁護士・THEペット法塾代表) 【行政の収容動物の実態、殺処分の実態の調査】 植田勝博氏(弁護士・THEペット法塾代表) 【QOL、5つの自由と動物虐待】 相良芙美氏(獣医師)第2部 【保護犬の人馴れ訓練プロジェクト】 丸山稔氏(岡山市保健福祉局保健所衛生課) 【東京都八王子警察事件 警察の異質の猫の遺棄犯罪と、警視庁の情報隠蔽】 植田勝博氏(弁護士・THEペット法塾代表) 【茨城県の殺処分ゼロとキャピン】 鶴田真子美氏 【動物をめぐる法律問題】 坂本博之氏(弁護士) 【兵庫県動物愛護センター第3次住民訴訟】 植田勝博氏(弁護士・THEペット法塾代表) 【京都・八幡大量動物殺害事件の司法の不全】 向井雄紀氏(弁護士) 【盲導犬の動物虐待の場面】 青木敦子氏(弁護士) 【ソーシャル・インパクト・ボンド】 雨夜真規子氏(和歌山信愛女子短期大学講師) 【動物の理解の必要性】 吉田眞澄氏(元帯広畜産大学理事・副学長) ※敬称につきましては、秋の勉強会チラシの記載のとおりとなります。 |
3年後の動物愛護法改正に向けて、現在での問題点の一つは、
虐待された動物を保護する手段がない、という点です。
言い換えれば、民法上は、あくまでも動物は所有権の客体でしかなく、
虐待されている動物の所有者から
当該動物の所有権を剥奪ないし停止する手段がありません。
今後の改正の方向性としては、
このような民法上の所有権との関係性が重要になってくるものと思われます。
秋の勉強会に参加された方は資料をお持ちのことと思いますが、
口頭での説明を中心に、以下、補足を記載しております。
私の手控えをもとに作成したもので一部要約した記載もあるため、
あくまでもご参考までにご覧いただけますと幸いです。
【串田誠一参議院議員からのご挨拶】
・現在の動物愛護法44条、特に2項は
「みだりにその外傷の生ずるおそれのある暴行」といった要件があるところ
かかる要件解釈に加え、結果と行為との因果関係まで証明を要することになることから、
警察や検察が動きづらい規定になっていること
・例えば、人間の通常の刑法204条の傷害罪や刑法208条の暴行罪では
上記のような要件がなく、現場の判断で動くことができる
・一方で、構成要件該当性を判断するために、獣医療的に証明させるのは
大変なことであるところ、現行法は法律自体が警察ないし検察を動かしにくくしているため、
より動かしやすい規定に改正すべきである
との問題提起がありました。
動物愛護法 刑法
(傷害) 第二百四条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。 (暴行)
第二百八条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
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【動物をめぐるの今の諸問題】
細川幸一氏(日本女子大学教授)の講演では、
エシカル消費と産業動物をテーマに、次のようなお話がありました。
・人間の感情のダブルスタンダード
→金魚を飼っているのに魚を食べる、ペットを溺愛するのに
ペットフードになる産業動物のことは何とも思わない
→生産と消費の分離が原因か
・アニマルウェルフェアとエシカル いのちを消費する者の責任 消費者としての責任
・畜産動物のアニマルウェルフェアを主張すると決まって出る
「人間は食物連鎖の頂点」という反論
本当にそうなのか?
世界中で人間の利益のために奪われている「いのち」の数は年間600億
→一方的に動物に対していのちの略奪を続けている
「食べ放題はいのちの食い散らかし」
・動物の権利 ドイツ民法は1990年動物はモノではないことを民法、憲法で制定
・動物は法律上も単なる物ではない
例)動物愛護法44条1項 5年以下の懲役 500万円以下の罰金
動物愛護法 基本原則の規定
・動物愛護法は、行政法規と刑事罰 民法上の規定ではない点が問題である
・現行民法の問題
ペット自身に財産を継承できない
ペットの事故死亡、物扱い 高い慰謝料とならない
自動車内に動物が長時間放置されたケース
窓を壊して救助したら器物損壊として訴追される恐れ
・民法と動物 動物に法人格を与える意義
ポイント:必ずしも自然人と同じ権利付与にはならない
→不必要に殺されたり、虐待されたりしない権利
→動物に成り代わって動物愛護団体が権利を行使することに
・動物に代わって権利を行使する適格消費者団体の創設など
cf)東京医科大女性差別事件での提訴
【動物の命、人と動物の共生】
堀越啓仁氏(元衆議院議員)
工場畜産は薬剤耐性菌や地球環境と畜産の問題にとどまらず人権問題にもつながるため
人の健康を守るために動物の健康を守るべきである、という視点でのお話がありました。
例えば、鶏を飼育する環境について、
1㎡あたり、EUでは33kg、ブラジルでは28kgであるところ
日本においては58kgであるといった、
飼育密度の問題についても触れられていました。
過密飼育が伝染病に繋がり、回りまわって
人間の健康を害するのではないかというご指摘です。
動物福祉と倫理的消費について、
堀越氏のインスタグラムに日々投稿がされているそうなので
ご興味のある方はぜひご覧いただければと思います。
【動物をめぐる状況と問題】
太田匡彦氏(朝日新聞記者)
動物愛護法改正前後の状況についてのお話がありました。
・飼養管理基準省令で積み残した課題
→猫の繁殖回数が無制限であること
帝王切開回数が無制限であること
・下請け愛護問題
→行政による指導が無制限に繰り返された結果、
指導の度に愛護団体が新たに引き取りをし、また頭数が増えてまた指導となり、
業者の存在を愛護団体が無料で助けてしまっている状況が見られる。
業者によるフリーライド。
・動物取扱業者を指導する行政の部署は食品担当が多く、
食中毒を出さないためにきちんと指導に従う飲食店を相手にしてきた
・他方、動物取扱業者のうち悪質な業者は指導に従わないので
飲食店に対する姿勢と同じでは解決しない
→行政指導に回数制限が必要
・今般の改正でペットの頭数に合わせた人員配置が義務付けられたが
解釈がゆがめられ、ある時間には1人しか常駐していない実態
・業者が大口の顧客となっている業者側の獣医師 適切な助言ができるのか
・最近の業界動向
コロナ禍で競り市でのペットの取引価格が高騰 例年の2倍
過去には東日本大震災(2011)でも高騰
1腹4匹 1匹20万円だと一度に80万円
子犬と子猫の繁殖コストは変わらないので、
売値だけが倍となり、相当な利益になったのではないか
・飼育管理基準省令によって、大型犬と猫の取扱数が減り、
小型犬の取扱数が増加の見込み
・出産回数をどうやってごまかそうとしているのか
→血統書の発行がかつては歯止めだったが、、
ミックス犬を作れば血統書が不要なので
ミックス犬の繁殖が増えている傾向
・マイクロチップの存在 高齢の業者の廃業につながる
・マイクロチップ更新の問題
かつてはペットショップが代わりに登録していたが、
AIPOによるキックバックが行政書士法違反ではないかと問題視され
代行されなくなった→チップ情報の更新が行われなくなる恐れ
・ペットサイトでの購入に流れ 消費者と業者のモラル頼み
【アニマルセラピーの役割】
村本知子氏(精神保健福祉士)
ユニ・チャームでの研究結果や京都大学での研究結果等
についてご紹介いただきました。
・シジュウカラが20以上の単語を持ち、
それらを組み合わせて話していることが明らかになった
・今後動物の言語がAIの進歩とともに解析解明されていけば、
虐待の被害を動物から聴取できるのでは
【兵庫県動物愛護センター第1次住民訴訟】
【行政の収容動物の実態、殺処分の実態の調査】
植田勝博氏(弁護士・THEペット法塾代表)
兵庫県動物愛護センターが、痛み、負傷、病気の動物について、
治療が可能である動物を殺処分している件について、
5つの自由の観点からお話がありました。
また、岡田実千代氏と岡田仁志氏による公文書開示請求によって、
殺処分をする理由や即日殺処分件数についてまとめていただきました。
【QOL、5つの自由と動物虐待】
相良芙美氏(獣医師)
米軍基地における地域猫の試みについてお話いただきました。
・不治の病にかかっていいたとしても、
動物の病気やケガは苦痛を伴うものであるため、
殺処分は5つの自由に反し、ネグレクトにあたる
・動物虐待、児童虐待、高齢者虐待、家庭内DVという
4つの暴力は連合している
【保護犬の人馴れ訓練プロジェクト】
丸山稔氏(岡山市保健福祉局保健所衛生課)
池田動物園 ZOOねるパーク
岡山市における保護犬の人馴れプロジェクトについて
お話いただきました。
・人に慣れていない犬や老犬は譲渡先を見つけることが困難
・岡山市が同プロジェクトを発足したところ、
多くの市民から保護犬の訓練希望あり
・ボランティアの方でも持て余してしまう犬についても引き取って訓練
・同プロジェクトで無事に譲渡先が見つかっている
【茨城県の殺処分ゼロとキャピン】
鶴田真子美氏
茨城県殺処分ゼロへの5年について、お話しいただきました。
・2016年12月28日、議員立法により、
茨城県いぬねこ殺処分ゼロをめざす条例交付
→センター引き出し犬猫の避妊去勢手術に助成金が出ることになった
→当時、犬猫の殺処分作業に従事していたアルバイトの高齢男性から
「毒団子を食べさせることがつらい」との訴え
鶴田氏が週に4頭ずつ引き出したが、出しても出しても収容する状況
・2019年に殺処分再開を求める一部動物愛護団体の存在
自民党県議連団は殺処分再開を決める
・譲渡不適切な動物を殺しても殺処分にカウントしない行政
・2019年7月9日 茨城県に対し住民訴訟
犬猫殺処分公金支出差止訴訟 (同年3月29日に住民監査請求)
・2021年6月18日 住民側敗訴 同年7月5日控訴
・2021年12月16日 控訴審棄却
→裁判では敗訴となったが、県や茨城県動物指導センターへの
要望を繰り返し、2021年度、茨城県で初めて殺処分ゼロを達成
・今後について
数値規制に則ったアニマルウェルフェアセンターの設置を希望
現在の動物愛護センターは狂犬病予防法の抑留施設
【動物をめぐる法律問題】
坂本博之氏(弁護士)
虐待等を受けた動物の救護に関する
法制度の整備の必要性について、お話いただきました。
・現在の動物愛護管理法の下では、
飼い主が所有権を手放すという意思表示を行わない限り、
虐待を受けた動物を救出することは困難
・参考となる制度 「一時保護」児童福祉法33条1項
・一時保護は前回の動愛法改正の目玉だったが、
法務省の大反対で制度化が見送られた経緯
法務省はあくまでも所有権にこだわった
・動物の所有権を剥奪しないで動物を救出する方法の模索
・動物は特殊な地位にある
新しい権利、例えば飼養権を創設してはどうか
・裁判所への飼養権の停止、喪失の申立て
→裁判官に新しい権利について
周知徹底することとセットで行う必要がある
【兵庫県動物愛護センター第3次住民訴訟】
植田勝博氏(弁護士・THEペット法塾代表)
首輪をしていた迷子犬につき、兵庫県動物愛護センターが
警察からの送致後わずか30分で殺処分した問題についてお話がありました。
・本来、遺失物法では、持ち主が不明である動物について
3か月間の告示期間を経る必要があるところ
今回は直ちに殺処分を実施した点で問題がある
・遺失物法は所有者に物を返還するための法律であり、
殺処分を認めた規程はない
・遺失物法、民法では、動物の殺害をすれば所有者の権利を侵害
・動物愛護法もみだりな殺傷を禁じている
【京都・八幡大量動物殺害事件の司法の不全】
向井雄紀氏(弁護士)
2020年6月3日から4日にかけて、京都府八幡市内にある住宅内に、
大量の犬猫と思われる死骸が発見され、30匹近い数の犬猫が救助された
という事件についてお話いただきました。
・住宅の主は、「神ボラ(神ボランティア)」と呼ばれたM氏で、
SNSにおいて保護活動を積極的に公表することにより
一般市民から多額の寄付を受け取っていた
・報道では虐待罪(動愛法44条2項)
・2020年12月10日、京都区検が動物愛護法違反(虐待罪)で
略式起訴、罰金30万円の略式命令
・逮捕当初は動物愛護法44条1項(みだりな殺傷罪)が
被疑事実になっていたが、故意が認められなかったことと、
大量の犬猫の死骸から死因が特定できなかったことを理由に、
虐待罪のみの略式命令
・弁護団が保護団体代表者を原告として、
保護犬の詐取を理由と知る不法行為に基づく損害賠償請求訴訟提起
・現在、上告受理申立て中
【盲導犬の動物虐待の場面】
青木敦子氏(弁護士)
→既述のとおりです。
【ソーシャル・インパクト・ボンド=SIB】
雨夜真規子氏(和歌山信愛女子短期大学講師)
神戸市人と猫との共生推進協議会の事業についてのご報告をいただきました。
・SIBを犬猫の殺処分ゼロ実現に応用できないか
・条例施行後、繁殖制限事業の広がり 殺処分数の減少に効果が見られる
・和歌山県内での児童養護施設に犬を里子に出すという取り組みを計画中
【動物の理解の必要性】
吉田眞澄氏(元帯広畜産大学理事・副学長)
今年度のノーベル医学生理学賞に触れ、
科学捜査による動物虐待防止への期待についてお話いただきました。
抜粋のみで恐縮ですが、以上になります。
今後も新しい情報が入りましたらご紹介させていただけたらと思います。