インターネット上の動物虐待画像等への法的対応(前編)

皆さまからよくいただくご質問のうち,
インターネット上で動物虐待画像や動画(以下「動物虐待画像等」といいます。)を
発見したがどうしたらいいのか,というものがあります。

インターネット上で広まっている動物虐待画像等は,大変に痛ましいものです。
そこで,本日は動物への動物虐待画像等に関し,「法的にできること」と「できないこと」,
について回答させていただきます。
インターネット上で動物虐待画像等を見つけて,動物達を助けたいという方々のお役に立てる情報になれば幸いです。

なお,動物愛護法は愛護動物にしか適用がないため,以下,愛護動物への虐待画像等についてご説明いたします。
愛護動物の定義は,動物愛護法44条4項に規定されておりますのでご参照ください。

第四十四条 愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた者は、五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金に処する。
2 愛護動物に対し、みだりに、その身体に外傷が生ずるおそれのある暴行を加え、又はそのおそれのある行為をさせること、みだりに、給餌若しくは給水をやめ、酷使し、その健康及び安全を保持することが困難な場所に拘束し、又は飼養密度が著しく適正を欠いた状態で愛護動物を飼養し若しくは保管することにより衰弱させること、自己の飼養し、又は保管する愛護動物であつて疾病にかかり、又は負傷したものの適切な保護を行わないこと、排せつ物の堆積した施設又は他の愛護動物の死体が放置された施設であつて自己の管理するものにおいて飼養し、又は保管することその他の虐待を行つた者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
3 愛護動物を遺棄した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
4 前三項において「愛護動物」とは、次の各号に掲げる動物をいう。
一 牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる
二 前号に掲げるものを除くほか、人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は虫類に属するもの

まず,動物虐待画像等が私たちの目に触れる状況になるためには,いくつかのプロセスがあります。
例として,愛護動物を殴っている動画を動画投稿サイトにアップロードしたケースを挙げます。

このケースでは,

⑴ 動物虐待行為を行う(殴る)

⑵ ⑴を撮影する

⑶ 編集・コメントを付加する

⑷ アップロードする

おおまかに以上の4つのプロセスを経ています。

ネットで目にするのは⑷になってからですので,⑷を理由に警察に通報をすることになりますが
警察は,⑴が本当にあったのか,⑴と⑵⑶⑷との関連はあるのかに着目し,
上記がすべてが揃ってなければ動かない,ないし動けないと言ってくることが多いです。

これはなぜかと言うと,
⑴の行為は,動物愛護法44条1項(動物殺傷罪)に該当する可能性がありますが,⑵~⑷には同罪が成立しないからです。
⑶のコメントに「今から殴ります」等の記載があったとしても,
それだけでは真に動物虐待行為があったという証拠とはなりません。
なお,厳密にいえば,虐待行為の撮影を援助・助長することは動物殺傷罪の従犯
(動物愛護法44条1項・刑法62条)になる余地はありますが,通常は立証困難でしょう。
そこで,本当に⑴があったのかが問題になります。

刑事事件として検挙するため特に重要なのは,次の3点です。

①⑴の人物と疑惑の人物が同一かどうか(「犯人性」といいます),

②動画からわかる虐待行為が44条1項の「みだりに」「傷つけた」と言えるかどうか,

すなわち,「殴った」行為によって「被害動物」が

③アップロードされた動画に出ている虐待行為が公訴時効(改正前の犯行では3年,改正後は5年)を

徒過していないか(刑訴法250条,動物愛護法44条1項)

 

警察は上記①~③が確実に揃っていないければ,と理由をつけて捜査に着手しないことが多い印象です。
そうは言っても,弁護士を含め捜査権限を持っていない一般人にできることは限界があります。
本来であれば,通報や刑事告発といった捜査の端緒を得て速やかに捜査に着手し,
その結果,上記①~③がわかるというのが現行の法制度です。
それにも関わらず,動物虐待事件は人間の被害者がいないことと,警察内部での優先順位が低いこと,
捜査に割くリソース不足,等の事情で適切な法制度の運用がなされていない残念な現状です。

そして,法的にできることとしては,まず警察への通報です。
可能であれば,警察内部の記録に残るため110番通報が望ましいです。
例に出したケースのように,実際に愛護動物を殴っているのであれば,保健所ではなく警察の取り扱いになります。
もっとも,インターネット上での事件の場合,犯罪が行われているのがどこなのかが通報の大きな壁になります。
どうしてもわからない場合は,お住まいの地域の最寄りの警察になります。

次に,通報の仕方ですが,何をおいても証拠の確保が重要です。
インターネット上の画像等の場合,削除されることも多いので,
速やかに証拠となる画像等をダウンロードする等して保存して
当該画像等のどの部分が虐待行為なのかを指摘できるようにしておきます。
通報後に警察から画像等の提供を求められたら,整理して提供するとよいでしょう。

また,インターネット上の動画の場合,情報が錯そうする恐れがあります。
そのため,できるだけ情報を集約し,同じ志を持った方々と情報共有をして
捜査に役立つ情報はしかるべき機関に提供してください。
気を付けなければならないのは,仮に真実だったとしても,
特定の人物に対しネット上で「○○氏は△△事件の動物虐待犯だ」「ここが虐待犯の家だ」などとと名指しすることは
名誉棄損(刑法230条,民法723条参照)やプライバシー侵害の不法行為(民法709条)に該当しうることです。
特に名誉棄損は,民事責任と刑事責任,ともにあるため注意が必要です。

次回に続きます。

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